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紅楼夢の殺人

文藝春秋  岸辺 拓・著

HONKAKU mystery masters
本格ミステリということで、ラインナップされている一作です。
推理小説って言うのは、ミステリと称するものとはまた違う気がするのですがいかがどうでしょうか?
近頃の推理小説はなんだか趣が違いますよね。
ミステリの定義が、正直わからなくなっているこのごろです。
殺人事件があってそのトリックがあるわけですが、最近は事件のあらましとか探偵や刑事たちの推理ではなく、著者の書き方に通常とは変わった手法が取られているようで。
「はさみ男」とか、「葉桜の季節に君を想うということ」とか、「四日間の奇蹟」とか?
犯人がアリバイを証明するために使うトリックを記すのが推理小説で、著者が作品の見せ方で読者をあっと驚かせるのがミステリという感じ。
犯人ではなくて、著者に騙されたことにムカついたりすることもしばしば(笑)。

本格ミステリー・マスターズ。
これってなんだか凄いですよね。
何故か、京極夏彦が装丁をデザインしているとか。ご本人はまだ、執筆はされていないのですよね。いつか書いてくれるのではと、密かに期待しておりますが。
一輪の花が表紙に咲いたその分厚い本の数々を並べると壮観でしょうねえ~。残念ながら、私は三冊しか持っていませんが、場合によっては好きな花の本を買うのも一興かも。もっとも、好きな花なんてないんですが(なんじゃそりゃ?)。

この手の真相がメインのお話は、こういうのを書くのに不向きな話ですよね。ネタばれしていつも書いていますが、やっぱり真相とか犯人とかに触れないで書くのがエチケットなのでしょうから、そこには触れてはいけないわけで……。

とにかく、こうした過去の作品を振り返ってみると。

「はさみ男」などは、その手法に驚き目を見張った最初の作品です。
追う側と、追われる側の視点に切り替わって綴られていく事件。すっかりのめりこんで、最後のどんでん返しの数々に目眩すら。
真相を聞いて「ええっ?」と驚愕し、だがその後その真相が上手く整理できずに「んあ?」と困惑したものでした。

「四日間の奇蹟」などは、今度映画化するそうですが、ぶっちゃけなにがミステリなのかわかりませんでした。
ミステリとうたっているけれど、ミステリの定義がすっかり意味不明になった作品。
内容はファンタジーだすしね。推理小説を想像して読んだので、犯罪事件があるわけでなし、犯人も出てこないので「あら?」と思いました。
ただ、感動することは確か。ミステリではなくて、もっと別の紹介はなかったものか?

そして、最初に読んだミステリー・マスターズ作品は、
「葉桜の季節に君を想うということ」
この「ミステリーがすごい」第一位だとか、一時期話題になっていた作品で、知人も気にしていたので私も読むことにしました。
素人探偵が悪徳商法の会社の悪事を暴く、みたいな内容なのですが、主人公の素人探偵が実に人間くさくて格好いい。正義の味方というのではなくて、正直悪いこともしてるんですが、基本的には悪人ではないですよね。
ちょっとヤクザっぽい感じがするんですが、割と慕われている兄貴分で、調子が良くて頭が切れる。良い意味でも悪い意味でも男っぽい。女にだらしない主人公も、作中では運命の相手と出会うわけで。面白い。
ただ、作品の真相が出てしまって、「うおおい、マジで!?」みたいな驚愕の真実にページをめくる指が止まらない。
ただ、読後は作品に対する印象ががらっと変化。
これがなかったら、何度も読み返してたんだろうけどなー。読み返すと、真相をしってしまっただけにどうしても、作品の印象が違って来ちゃうので……。

それはともかく、本題の「紅楼夢の殺人」。
前述の「葉桜の~」の歌野晶午も、この作品の著者も一度も読んだことがないけれど、表題に惹かれたのは事実。
「葉桜の季節に君を想うといこと」は実に素敵な題名だと、今でも思っています。
「紅楼夢の殺人」はそのまんまなタイトルではありますが、中国の古い時代の殺人事件と聞いては捨て置けない。
近頃では、高度な文明のためか信じられないよーな力業密室トリックなんかがあって、興冷めすることもしばしば。
けれど、そんな古い時代のトリックってどんなのだろう? と興味津々。
修道士カドフェルシリーズなども、古い時代のため科学的根拠云々の小難しかったり、密室の間取りが想像できないようなトリックではなく、実にわかりやすくてシンプル。

「紅楼夢」は中国古典の一つのようで、西遊記や三国志などとは並ばないのも未完の作であるからのようですね。
中国の源氏物語とも呼ばれるようで、そうした作品を下敷きに描かれた様子。
この手の本には珍しく、実はカラーイラストがついています。気付いたのは、半ばも過ぎた頃。実際には見たことを後悔したりして……。絶対、付けないほうがよかったと思う。
それから、漢字が読めないので、名前の読み方を覚えないまま、読み終わってしまった(苦笑)。
そこがちょっと馴染めないのは否めないー。なぜだか、封神演義の時は平気だったんだけどなー。

皇帝の覚えもめでたい、栄華を極める一族。皇帝の妃たる長女の里帰りの折、広大な敷地に人工の楽園「大観園」がつくられ、絶世の貴公子と少女たちがその楽園に住まうことになったことから起こる、連続殺人事件。
その事件の解決のために、国きっての敏腕刑事(?)、頼尚栄が派遣されるのです。
大観園では、貴公子の宝玉が一族の美少女たちと楽しく日々を過ごしているわけですが、それをあざ笑うかのように次々と殺人が起こります。
古い時代の女性の不当な扱いも、その楽園には届かぬものと思われたのですが……。

そうした時代背景もさることながら、文面から伝わってくるのは、花吹雪が舞う緑の庭の美しさ。中国の華麗な建造物がいくつも並び、その広さは想像を絶するわけで、常に花が咲き乱れています。
けれど、その庭園のために払われた犠牲はいったい?
人がつくった貧富の差、身分の差、それらしがらみから逃れるためにつくられた庭園ではありましたが、そこの住まう少女たちはやはり搾取する側の人間でしかなく、それ故に現実から逃れる術はない。
それだけ贅沢な暮らしをしていて、さらに不幸な身の上の少女たちを侍女にして。
人は生まれる家を選べない。
ただそれだけのことだけれど。
ただただ哀しい。

ヒロインの一人である、林黛玉は引っ込み思案で、そのくせ素直になれない影のある美少女。
何故か自分を孤独にしてしまう不器用さに応援したいことしきり。
お気に入りの美少女を見つけることも、この作品の醍醐味かも。
断然、モデルとなった「紅楼夢」に感心が湧いてきました。

あっと驚くトリックこそないものの、その真実と結末にはやりきれなさが募るばかり。
盛者必衰の絵巻物語りです。

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