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ルーンロード1 大地の王の再来

英雄ファンタジー戦記、ついに開幕! ってか?

富士見書房 デイヴィッド・ファーランド・著

確かにちょっと変わった戦記物だ。
はなはだRPGの能力値を小説に表現するのは難しい。
一番難しいのは<頭の良さ>だと思うだけれど、それは問題なく表現されている様子。
かなり複雑な世界観が広がっていて、困惑することも多い。
本の冒頭で「人権意識に照らして適切ではない表現が含まれています」とあるように。
それが日常なわけで、普通のことだから受け入れられるのかも知れないけれど、貧富の差だけでなく、人間の能力の差、階級をつくりだす。

この世界の最大の特徴としてあげられるのが、能力値を他人に譲渡することが出来る<変換棒>の存在。
このシステムが大変良くできており、作り込まれている。
受け取る側がルーン卿、与える側が賦与者と呼ばれる。
能力値は一人が人生に一回、一種しか差し出せないのだが、受け取る側はいくらでも受け取ることが出来る。
それぞれの五巻と、<筋力><持久力><品格><代謝><賢知><魅力><声>などがある。
<変換棒>は希少価値の高い物なので、もちろん権力者しか手に入れることは出来ない。けれど、能力値を受け取るには賦与者の同意がなければならないという大前提がある。しかし、それも<魅力>をつぎ込んだルーン卿の前では拒否もできないのですが。

能力値を譲渡した賦与者は、その能力を失ってしまう。
視覚や聴覚を与えると、盲目になり聾唖になってしまう。肉体に関係する能力を与えると、身体が動かなくなり寝たきりになり、<賢知>を与えると無知になり幼児に戻ってしまう。他は文字通りなのだけれど、
<賢知>は賢くなると言うよりも、記憶力が良くなると言うもの。
<品格>がいまいち良くわからない。魅力と同じ物かと思いきや、筋力を制御する能力のことらしい。品格が高いと姿勢がよくなるってことか? まあ、確かに見栄えがするかも。
そして、最大の能力が<代謝>。
新陳代謝の速度が上昇し、それだけ早く動くことが出来る。しかし、その分寿命も同じ速度でとることになる。
何十人もの代謝を受け取ったら、数ヶ月で老人になってしまう。そして、与えた方は仮死状態になってしまうのだ。
作中に描写はないが、きっと爪が伸びるのも髪が伸びるのも早いし、食事の回数や排泄の数も絶対に多くなっているに違いない!!

ルーン卿は、賦与者から力を手に入れたら、弱ってしまった賦与者を保護しなければならない。
なぜならば、賦与者が死んでしまえば、ルーン卿は手に入れた能力値を失ってしまうのだ。
敵は賦与者を殺そうとする。そう、それこそ無力な人々を。
他にも依り代とか、蛇の環なんて、面白いシステムがある。
もう、この作品での最大の特徴に違いない。

そしてやはりそこには、人権問題や権力闘争などが当然の様にある。
かなりモラルの問題があっちこっちにちりばめられている。
貧しい人々は、貴族たちに能力値を与えることで金銭や保護を与えられる。死んだりしたら能力値を失ってしまうのだから当然な行為だけれど、そんなことは無頓着な非道な王もいる。また、動物から奪う者もいる。
馬などは、同種の馬から能力値を与えられて、駿馬に変身する。

人間たちは、最初に生まれたときに初期能力値があり、それぞれ優れた能力値を貴族たちに差し出すことになるわけだ。
無情なことに、愚かで醜いお坊ちゃんに、魅力や筋力、賢知などを与えて理想の王子さまを創り出すこともできるのだけれど、性格だけはどうにもならない。
どうにもならない嫌な奴に能力値を奪われることになると、その人は一生酷い目をみて生きていかなければならない。
読んでいるこちらもどうしようもない不条理に憤りを感じることになる。

主人公グボーンは、そうした他人から力を受け取ることを快く思っていない好青年で、王子様。隣国の王女様に結婚を申し込みにいくところ。
大地の王となり、世界の危機から救う、予定。
なんだかちょっとできすぎな感がある性格。紳士で、しかも良識人。なのに鈍いところがあってそれが結構な人々を不幸に追いやってしまう、不遇な青年。
人格者なので、戦記ものの主人公にしては派手な戦闘を繰り広げるわけでもないし、感情の起伏が少ないので感情移入しにくい。
<大地の王>は、絶大な保護の力を持っている。大地を傷つける者には与えられない力。
それゆえに今後もグボーンは、戦うことはないだろうな~、と。

ヒロインのイオーメは、特に大きな力も賦与者たちもいないのですが、美しく聡明な姫君。
大王アーテンに<魅力>を奪われ醜女になってしまうのですが、グボーンの愛の支えで強く生きていくのでした。
最初っから救済処置がされているので、あんまり心配しないのですが。

そして二人の敵が、大王アーテン。
何千もの人間たちから、能力値を搾取する非道な王。ただし、代謝を貰いすぎると早死にするので、いざというときの大戦でしか代謝をもらわない。しかも、代謝を貰った後は、それ以上老化しないように、賦与者を殺してしまうという非道っぷり。
魅力と声もいくつも奪い取り、そのあまりの魅力と声に誰も逆らえないという徹底ぶり。
だが、それだけに身体のバランスをとるのも大変。
持久力だけあっても、重たいものを持ち上げられず、支えておけない。そのため、同じくらいの品格や筋力が必要になってしまう。
そんな大王の賦与者になってしまえば、不幸なのは目に見えています。
自ら死ぬことも許されずに、アーテンや部下たちに能力を与え、しかもろくな世話もして貰えない。迫害されることはないとはいえ、ましなみじめな生活を強いられる。
捕虜となれば、味方に殺されるのを待つしかない。

どうしようもなくやりきれない賦与者たちに、ちょっとうんざり。
しかも、物語の展開も時折驚愕のがっかりにさらされる。肩すかしをくらって、がっかりしてしまい、展開が大きく変わっていく。がっかりが大きければ大きいだけ、あとであっと驚く伏線だったとわかるのですが、賦与者たちのやりきれなさに拍車がかかって、期待感よりも喪失感の方が多くて困る。
まあ、状況は挽回されるので、いいのだけれどー、挽回しきれないこともあって、やっぱりやりきれない。
ちょっと盛り上がりに欠けると思う。

まだまだ序章と言うことなので、今後も期待。
なにせ、この世界観は良くできているのですから~。

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