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折れた魔剣

あの「指輪物語」と同じ年に世に出たという作品。

ハヤカワ文庫 ポール・アンダースン・著

ケルト神話、あるいは北欧神話を下敷きにしたハイ・ファンタジー。
復刊したんですかねえ。なにやら昔と違って大きな文字で復活したとかコメントがありますが。
でも、中の字はそれはそれは小さいです(苦笑)。
とはいえ、文庫旧版の「指輪物語」の字に比べれば全然大きいわけですけれど……。

エルフ、トロールなど仙境に住まう民たちがまだ地上に住んでいた頃、イングランドの強者オルムに息子が生まれた。
だがその赤ん坊は、ある夜エルフの太守に連れ去られ、華麗な魔法の国で屈強な戦士へと成長していく。
彼スカフロクと、オルムのもとに残された取り換え子ヴァルガルド、この重い宿命を背負った二人の対決は、ノルンの三女神の紡ぎ出す生と死の糸をたどって、栄光と悲劇の一大叙事詩を展開する。

というわけで、取り換え子のお話です。
なんというか、昨日観た「アイランド」が思いだされます。
ヴァルガルドは、エルフの太守によって、奴隷のトロールに魔法で生ませた子供で、スカフロクに似せてあります。
まるで、クローンを誕生させたかのようですね。
すべてはオルムに一族を殺された魔女の復讐による策略ですが、二人は互いに憎み合い、殺し合う運命にありました。
スカフロクはヴァルガルドの出自を知らないので、一方的にヴァルガルドが出自に関して苦悩するのですが、それはまさに自分が偽物故の苦悩です。
「アイランド」のユアン・マクレガーの方は、オリジナルに救いを求めるくらいですが、結局二人も殺し合うことになりましたからね。
本物のほうだって偽物になりかわられるのではないかと恐ろしいし、偽物は本物になりたいと足掻く。
この物語もそれが主軸になるわけですが、それだけでは終わりません。

スカフロクは、エルフの世界で立派な若者に成長します。陽気で機知に富み、エルフの女たちにももてました。エルフの戦士たちの信頼に篤い優秀な戦士、また魔術の腕を持っています。
人間世界に送り込まれ、自らの出自も知らないヴァルガルドは自らの内でくすぶるわけのわからない破壊衝動に突き動かされ、乱暴者になり家族からも疎まれる様になります。
ヴァルガルドは魔女に惑わされその思惑通り、家族殺しの罪を背負います。
スカフロクはついにヴァルガルドとまみえ、オルムの最後に生き残った娘フリーダと出会います。
そうして、二人は一目で恋に落ち、兄妹で禁断の契りを結んでしまうのでした。
その辺は「ニーベルンゲンの指輪」を下敷きにしていますよね。
二人はそのことを知ってしまい、悲劇に陥るのですが、その場面はあまり悲壮感はなかったかも。
全体的に悲惨な世界が広がっていますので、そのうちの一つなんですよね。

酷評しました「君の名残を」でも、怪僧のエピソードに出自も知らず妹と結ばれてしまう、というのがありました。
あちらの方は、妹の方がその事実に耐えきれずに狂い、悲壮な最期を遂げます。それに関しては、「君の名残を」に軍配が上がりますね。
ただ、「折れた魔剣」には神様が存在します。高次元な存在が顕在し、神々の黄昏にむかって運命を紡いでいる世界なのです。
そうした世界観だからこそ、スカフロクとヴァルガルドの二人が弄ばれる運命の悲壮感が際だつんですよね。
「君の名残を」のようにわけのわからない宇宙の意志がふざけた軽い存在ではなく、重々しく世界を支配する存在としてそこにあることに違和感がないのです。
久方ぶりの、血肉湧き踊るハイ・ファンタジーを堪能いたしました。

スカフロクとヴァルガルド。
最後に二人はほとんど相打ちになって、倒れてしまいます。
神々の戦いに際し、ある目的のために運命を弄ばれた二人の死は悲壮であります。
スカフロクとフリーダの悲恋はちょっと物足りなかったかな。なんでしょうか、やっぱり日本人とアメリカ人の思考の違いなのかしら。
日本人は、連れ合いと子供のどちらかを助けなければならないとき、子供を助けるそうです。
でも、アメリカ人は、連れ合いを助けるそうです。

人種の考え方の違いか。
人種間の争いも絶えないというのに、人間は自分の複製を造りだし、自分に似たロボットを創り出す。
そして、そこに夢想するのはやはり、複製、ロボットとの争いなんですね。

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